二〇〇二年八月二〇日
中小企業社長Bさんの運勢を占う

Bさんは出版社の社長をやっています。自転車操業を二〇年続けてきました。毎月資金繰りに苦しんでいます。

しかし、不況にあえぐ中小企業の経営の話ではなく、会社の経営と関係のないところで負債が積み重なり経営を圧迫しているのです。それはBさんの個人的な借金です。

Bさんは信用金庫はもとよりカードローンなども借りまくっています。
さらに友人、知人、愛人など、ありとあらゆるところから借りています。
こんなことが二〇年続いたわけですから、いまさら友人、知人、愛人のだれしももはやBさんとは縁を切れません。しかもそれはもはや対等な人間関係ではなくなっています。Bさんはあちこちで非常にウエットな状況に陥っております。

個人の借金といっても会社の社長の借金ですから会社の経営を圧迫していることは事実です。しかし、会社の経営それ自体をとってみれば極めて健全なのです。
Bさんの会社は定期刊行物がメインです。二〇年間やってきた実績でしょうか、クライアントも電話一本で毎年広告を出してくれます。売上もそこそこいっています。やっている事は優良事業なのです。

そういったBさんの足下をみてか、Bさんの会社を買い取りたいという話がでてきました。それも二社から申し出を受けています。しかも双方Bさんの面倒もみるといっています。
多額の借金を抱えているBさんにとってはいい話のようにみえます。

されば、単に会社を人手に渡すことの是非を占えばいいのかと思いますが、しかし、一方でどうしてこんな事になってしまったのか疑念も残ります。

たまたまBさんにじっくりと話をうかがう機会がありました。

実はBさん、この話にはあまり乗り気ではありません。

「世の中にいい話はない。半分はウソだと思っています」

たしかに、世の中いい話はありません。申し出のあった会社はBさんの会社を買いっとった後も、Bさんを社員として雇うとはいっています。
しかし、それはクライアントと話ができるのがBさんしかいないからであって、何年かして他の誰かが代行できるようになれば、Bさんはお払い箱になる可能性があります。それに、いままで社長だった人間がふたたび人に使われる身になれるのかという問題もあります。

そこでBさんは考えました。

「でも、だまされたにしろいい話です。
 ほかの会社ができると言っていることが自分ができないはずはない」

Bさんは会社の自力更生を考えています。要するに提示された再建プランと同じようなことを自分でやればいいわけです。それができるならベストの選択肢です。
しかし、そもそもなんで借金を抱えるハメになったのかうかがってみました。

「ばくち、女はやりません。使ったのはすべてまともな営業です。
 人がいいんですよ、私は。頼まれるとどうしてもイヤとはいえない。
 人と会ったり、話をまとめたりするのが好きなんです。
 タダでそういうことをやっていたんですよ。でもね、タダほど高いものはない。
 話をするんだって、一席設ければそれなりにお金もかかります。自分もちですよ、すべて。
 なんだかんだで、気付いてみれば借金が膨れ上がっていた」

「自分の性格を一言で言えば、優柔不断で決断力がないんですよ。それと楽天家。
 ……人生まちがえたな。自分でいうのはなんだけど、調整能力はたけているんですよ。
(しっかりとした人物の)ナンバーツとしてやればよかった」

こうなった原因はBさん個人の資質にあるようです。
だとすれば話は簡単です。逆のことをすればいいのです。つまり、人から頼まれても断る、会社再建に向け強い強い意志を持ち続ける、ということを実行すればいいのです。
しかし、簡単な事でも実行は難しいこともあります。Bさんは二〇年間変わらなかったのです。これを機に変わる事ができるのでしょうか。再びBさんに聞いてみました。

「こうなった(借金を抱えた)大本と言うか、続かないんですよ。自分は。
 最初はよくても、一ヶ月も経つともういいやとなっちゃう。
 いままで駄目だったものが、だれの管理もなくできるのかって」

まさに、会社再建のネックはここなのです。
しかし、問題はそれだけではありません。

「もう一つは、肝臓が悪いんです。お酒の飲み過ぎで。
 医者から酒はやめろって言われているんだけど、やめるつもりはありません。
 (命は)もっても五、六年じゃないかな。
 生命保険には入っているんですよ。みんなにかえせる額は。
 自分が死ねばカタはつきます」

肚がすわっているというのか、投げやりになっているのか、いずれにしても穏やかではありません。
Bさんは五十代後半です。やり直すにも年令や健康の問題があります。
だとしたら、会社を人手にわたし、ここで借金の清算をやるべきではないかと思います。
しかし、二〇年間切り盛りしてきた自分の会社です。そう簡単には人に渡せません。奮起しようとも思っているのですが、さりとて自分の力で再起をはかる自信もありません。Bさんの思考は同じところをクルクルと回転しています。

Bさんは自分の事を楽天家というだけあって、深刻な話でも快活に話してくれました。
それでも苦悩の影は言葉のはしはしににじみ出ます。

「仕事の三分の一は借金のやりくりです。
 クライアントと話をしていても、あの金、三時までに銀行に入れなきゃって思うと、落ち着くどころじゃありません」
「こころが安らぐのは自分の営業をやっているときだけです。
 ○○さん(同業者の友人)とバカ話をやっているときだけかな。これだけはないとノイローゼになっちゃう」

こういった生活がいつまでも続くわけはありません。Bさんの人生は大詰めに近付いています。
果たしてどんな結末が待っているのでしょうか。

そこでBさんは今後の人生いかに生きるべきか占うことにしました。

   ◇   ◇   ◇   ◇

雷山小過の三爻を得た。

雷山小過はたびたび出てきました(新庄選手の活躍友月まやみさんの引っ越し)。ところで雷山小過の小過ってなんでしょうか。

この卦の形をみると上と下に陰が二本ずつはさまっています。小過の小は上下にある陰です。過は過剰の過です。つまり、陰が過剰にあるから小過というのです。

さて、Bさんにとって過剰なものとはなんでしょうか。おそらくは陰はマイナスですからBさんの抱えている膨大な借金です。過剰にあるわけですから、すでにBさんの返済能力を過ぎている状況をさししめしています。また、この卦を横にした形は、鳥が羽ばたく姿にたとえられますが、借金の返済に追われバタバタとあがいているBさんの姿なのかも知れません。

三爻を見てみましょう。

過ぎてこれを防がざれば、従いてあるいはこれをそこなう。凶。

解釈が難しいのですが、先守防衛に努めないと身に危害が及びます、というようなことをいっています。破綻が迫っているぞということなのかもしれません。

それでは、Bさんはどうしたらいいのでしょうか。
卦辞には「小事には可なるも、大事には可ならず」とあります。このような時には大きな事はしてはいけません。当然、会社の買収の話は断るべきです。

Bさんのすべき事はなにかといえば、日常の細々したことを着実にやりとげることでしょう。つまり、仕事の三分の一を占める借金の返済業務をこなしていくことです。不必要な営業も避けた方がいいでしょう。もちろん、そうしたからと言って展望が開けるわけではありません。しかし、いまはそうするしかないのです。

占う前は、そんなに借金に困っているのだったら、ここで思いきって借金を清算して、人生の棚卸をやればいいのではと感じていました。しかし、Bさんにとっては現在はまだその時期ではありません。

とにかく日々の業務や借金の返済を行って下さい。それがBさんにとって最善と易断いたします。
そうしているうちに、いずれ転機も訪れましょう。

ちなみに、この他にもいろいろとBさんの話をききました。
地方の名家の出身で、退廃した豪奢な生活を送っていた事、一転して全てを失い追われる身となった潜伏生活、再起から今日に至るまでの話はなにやら大河ドラマをみているようでした。
起伏の多い人生を楽しそうに語っているBさんを見ると、このひとはどうしても憎めない人だな、と感じました。

これもまた、Bさんの人徳というものでしょうか。

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