Q あなたは何者ですか。どうして易に興味を持ったのですか。
A 名乗るほどのものではございません(本当に)。
三十五歳。男性です。小さい出版社のようなところで、編集者のような仕事をしています。名乗ってもいいのですが、気恥ずかしくもあり、名乗ったところで意味はありません。
易に興味をもったのはあることを占ってからです。
以前勤めていた出版社に心憎からず思う後輩の女性がおりました。冗談を言い合いながら楽しく仕事をしておりました。
ところが、ある日突然まったく口をきいてもらえなくなったのです。
原因はどうやら彼女がなにやらつらそうにしているときに
「なんだ、しんどいのか。徹夜でファミコンでもやってたんじゃないの」
という、冗談のつもりの一言だったのです。
なんであるときを境にしてにして蛇蝎のように嫌われなければならないのかということが理不尽でしたし、原因が分からないから不安です。
「○○さんは、最近めつきがいやらしいんです。これってセクハラです」
などといった、あることないことを上司に訴えられたらたまりません。
小生の立場はどうなるのか、妻にはなんと弁明しようなどと思うと、思い当たる節がないこともないので? 気が気ではありません。
そんなこんなですっかりまいってしまいました。
そこで、易を立ててみたのです。
その結果、水雷屯の上爻を得ました。
水雷屯は雲の下で雷がなっている象です。いったいなんのことでしょうか。
さらに上爻の次の文句がまったく分かりませんでした。
馬に乗りて、班如たり。泣血漣如たり。
馬にのってぐるぐる回しにされ血の涙を流して苦しんでいるというのです。
意味は分からないものの何となく小生の暗い未来を暗示させます。こういう卦がでてしまったら是非もあるまいと覚悟をきめて結末を待ちました。
後日、彼女は子宮内膜症であることを本人の口からききました。
雲の下で雷がなっているというのは、こういうことでしょう。雲とはたぶん子宮内膜のことです。小生は実物をみたことがないのですが、胎児の寝床のようなところですからフカフカしています。そんなところで雷がなっているのですから尋常なことではありません。
子宮内膜症は生理痛が激しい病いです。苦しんでいたのは小生ではなく彼女の方だったのです。
血の涙は生理痛を、馬にのってぐるぐる回しにされるのは、おそらくは貧血症状でしょう。
ところで、易経では続けて「なんぞ長かるべけんや」と書かれています。そんなに長くはもたないよ、ということです。
しばらくして彼女は会社を辞めました。
別れ際に和歌を一首。
今日別れ ししょうとよばれし むかしなつかし
小生が本格的に易に興味を持ったのはそれからです。